ロ・ギワンに会った(チョ・ヘジン)

他者の苦しみは実態が見えず、察することしかできないため、つねに何かが欠けている。 彼は希望を育む術と地の果てまで絶望する術を同時に鍛えなければならなかった。 命がけで国境を越え、最愛の人を失い、生きるためだけに見知らぬ国へと流れ着いたここまでの道のり。それが何の意味もなかったことを受けいれなければならない、氷のように冷たい時間。彼は、懐かしさだけで故郷を思い出す甘い時間は、自分には今後いっさい訪れないだろうと悟った。 生きるために生きてきただけなのに、故郷を離れて以来ずっと追われ、隠れ続けなければならない犯罪者となり、時には一人の人間として守り通したかったものまで根こそぎ奪われた理不尽な日々。